株式会社寺田鉄工所 開発部 ソーラーシステム研究チーム 池田 正規    

<はじめに>
地球温暖化の対策と石油高騰が続いている中、自然エネルギーの利用に注目が集まっているが、専ら太陽エネルギーに関しては、太陽光発電が話題の中心で、太陽熱利用についてはあまり取り上げられていないように感じる。太陽熱利用について、まず給湯設備への温水利用が筆頭にあがるが、給湯に優れた製品であるが故、給湯にしか使えないといった誤解が生まれるのではないかと考えられる。給湯以外の用途について未発見の部分が多く、産業ニーズの潜在能力は高いと思われる。本稿では、より多くの産業での利用を推進するため当社の真空ガラス管式集熱器について特徴を述べる。

<真空二重ガラス管>
ガラス管の構造を図1に示す。本製品は二重のガラス管であり、外ガラスは透明、内ガラスは選択吸収膜が塗装された黒色となっている。外ガラスと内ガラスの間は真空層になっているため熱伝導せず、一度吸収した熱を逃がさないので高温までの集熱が可能である。


図1. 真空二重ガラス管構造図


<集熱温度>
真空二重ガラス管の性能を評価するため、同じ種類の二重ガラス管を、一方は真空二重ガラス管(以下、真空管)、もう一方を大気圧二重ガラス管(以下、大気圧管)とし、ガラス管内部に直接水を入れて昇温比較実験を行った結果を図2に示す。
図からわかるように、大気圧管では放熱損失が増大し、50℃付近で上限温度となっている。また、日射が弱くなった時間帯では、序々に温度は降下している。一方真空ガラス管は、日射が弱くなった時間帯でも上昇し続け100℃まで達している。さらに、これは水を使って実験した結果であるため100℃が最大値となっているが、実際に油加熱や空焚きでは200℃までに達する。
大気圧下での集熱については、いろんな場面で体感することがあるが、例えば、日の当たるところに置いてあるホースから水を出した時に、ホース内で加熱された温水が出ることがある。この温水を手で触ると熱いと感じるが、いくら天気が良い日でもやはり50℃前後である。水が沸騰する100℃までの温度に達することは真空管だからこそできる特徴と言える。

図2. 真空管と大気圧管との昇温比較


<集熱器>
当社の真空ガラス管式太陽熱機器には温水器と集熱器の2種類があり、それぞれを図3、図4に示す。図3に示す太陽熱温水器は、真空ガラス管とタンクが一体となっており、ガラス管の上にタンクが配置されている。加熱方式は真空ガラス管内の水が直接加熱され熱対流によって上部タンクと循環する方式となる。このタイプは自然循環式と呼ばれる。シンプルであり集熱性能が高く低価格であることが特徴である。
図4に示す太陽熱集熱器は、真空二重ガラス管の内部に熱伝導体と銅管が通っており、この銅管内部に熱媒を通し、ポンプによって熱交換器とを循環させることによって加熱する。このタイプは一般的に強制循環式と呼ばれる。銅管内を加圧することによって150℃程度の循環水を利用することが可能であることや、寒冷地で凍結の恐れがある場合に、不凍液を熱媒として使用可能であることが特徴である。


図3.真空ガラス管式太陽熱温水器


図4.真空ガラス管式太陽熱集熱器

<集熱性能>
まず、集熱性能とは、太陽の日射を受けて利用できるエネルギーとなる量を言い、通常は効率(%)で表している。たとえば、集熱効率が60%の集熱器が1000(W/㎡)の日射を受けると600(W/㎡)の熱エネルギーが得られる。ちなみに太陽光発電パネルの一般的な変換効率が15%程度であるのでエネルギー換算で言えば4倍程度性能が高いといえる。
また、集熱性能の評価方法についてはJISで規定されている。ただし、温水器と集熱器で内容は異なる。温水器は1日8時間の日射量が16.75(MJ/㎡)以上の日において、貯湯タンク温度上昇分の熱量と日射量によって1日当たりの効率を求めている。この温水器の評価方法は、実際の利用状態とほぼ同じであるので特に記述しない。一方、集熱器は630(W/㎡)以上変動が50(W/㎡)以内の日射時で、通常連続した5分間の計測時間内で、1分間に4回以上の一定間隔で、集熱器入口/集熱器出口/流量/日射量/外気温の値を計測していき瞬時の効率を求めている。よってここで求まる集熱器の効率とは最大出力を示しており、集熱器温度の上昇や、外気温や風による影響で効率は大きく変化することに注意が必要である。
太陽熱集熱器の種類には、大別して真空ガラス管式集熱器の他に平板式集熱器があるが、晴天時における日射量600(W/㎡)と雨天時における日射量100(W/㎡)を基準とした代表的な瞬時効率計測グラフを図5に示す。尚、グラフは計測データから最小二乗法によってもとめた近似曲線である。このグラフを元に集熱温度と外気温との温度差による集熱効率の変動を説明する。まず600(W/㎡)の日射を基準としたグラフを見てみると、平板式は外気温との温度差が少ない場合には優れているが、集熱器温度が上昇していき外気温との温度差が開いてくると上限温度に達するため集熱効率は降下している。また、真空管式は外気温との温度差にあまり影響を受けず、ほぼ一定の集熱効率を維持していることがわかる。次に日射量100(W/㎡)を基準としたグラフを見てみると、平板式では効率が大幅に下がり、ほとんど集熱できていない。真空管式では効率が下がるものの集熱効率は高い水準を維持している。
以上のような事が主な特性の違いであり、必要とする温度が低い場合では平板式集熱器が優れていると言えるが、外気温+25℃以上の温度が要求される場合や冬期にも集熱したい場合には真空管式が有利であると言える。

図5.平板式と真空管式の集熱効率


<今後の動向>
ドイツでは温暖化対策について、再生可能エネルギーの拡大を進めている。風力、太陽光、バイオマス、地熱といった再生可能エネルギーによる成果は、2007年現在、発電分野に顕著に現れていて電力需要は14%を占める。これに対して熱需要は6%にとどまっている。連邦政府は、来年に「再生可能エネルギー熱法」の施行を予定しており、気候保護と資源保護の観点から、熱供給に占める再生可能エネルギーの割合を、現在の6%から2020年までに14%に引き上げることが狙い。同法は、新築建物の所有者に対し、建物のエネルギー需要に占める再生可能エネルギーの割合を一定以上にすることを義務付ける。
こうした海外での動向に対して国内でも地球温暖化対策で、太陽熱機器を新たに設置した家庭に対して、節約できたエネルギー分を買い取る制度を、東京都が来年度から導入する。電気、ガスの使用量を抑制するために太陽熱機器を普及させるのが狙い。節約できたエネルギー量を認証機関が算定し、金額に換算する。買い取ったエネルギーについては「グリーン熱証書」を発行するといった内容である。

<おわりに>

上述したように、世界各国及び国内で温暖化対策の政策が施行されつつあり、この影響で太陽熱機器を取り巻く環境は追い風になりつつある。この時期に真空管集熱器の特徴を広く知ってもらうことで、通常の給湯や暖房利用の他にも、新しい利用用途も生まれるのではないかと思われる。例えば当社では身近に真空ガラス管に接してもらうため、超小型の太陽熱湯沸かし器を販売する予定である。今後、現状で重油や電力、ガスを利用している事業で、太陽熱集熱器による代替或いは燃料削減ができないかどうかを積極的に検討していくことが重要となる。